渡辺恭子引退公演「シンデレラ」を振り返って
2025年2月に、新国立劇場オペラパレスにて上演した「シンデレラ」。
本公演を最後に、渡辺恭子はダンサーとしての現役生活に終止符を打ちました。

ⓒHasegawa Photo Pro.
渡辺恭子がスターダンサーズ・バレエ団に入団したのは2008年のこと。
準団員として入団したのち数か月後には団員に昇格し、その年の公演で上演したバランシン「セレナーデ」では早くもソリストに抜擢されました。
そしてその翌年、2009年に日生劇場ファミリーフェスティヴァルにて上演した「シンデレラ」にて主役デビュー。
その後、バレエ団で上演するほとんどの作品において、プリンシパルロールを務めてきました。

主役デビュー作となった「シンデレラ」ⓒA.I Co., Ltd
スターダンサーズ・バレエ団ダンサーとして過ごした17年間。
引退公演となった2月の「シンデレラ」やこれまでの思い出について、本人に聞いてみました。
引退を決めたきっかけやスターダンサーズ・バレエ団に入るまでの人生については、バレエチャンネルによるこちらのインタビューをぜひご覧ください。
これまでのダンサー生活、本当にお疲れさまでした。
もう2か月経ってしまいましたが、ここでラストと決めて臨んだ2月の「シンデレラ」公演でした。
改めて、公演を迎えるまで、そしてそれが終わったとき、どのような気持ちだったのでしょうか?
公演を迎えるまでは毎日が必死でした。「シンデレラ」公演までの1ヶ月は毎週舞台があったのですが、実は本番が続く中で足の痛みも出てきてしまっていて。最後までちゃんと務めたいという一心で、身体とそれぞれの演目にひたすら向き合う、そんな日々でした。

「シンデレラ」リハーサルにてパートナーの池田武志と
公演前日は自分でも驚くくらい動揺していて、悲しさや寂しさ、不安など、様々な気持ちが一気に込み上げてきて。同時に、別日のキャストや団員の皆をそばで見守ることもこれで終わってしまうのだと思うと、しっかりこの”今”を、目に、記憶に、焼き付けなくてはという気持ちでした。
当日は、珍しく朝食もあまり食べられませんでしたが、劇場に向かいながら、改めてこうして最後の公演を迎えられることを幸せだと思えて、今日という1日を後悔のないように、楽しみたいと前向きな気持ちに変化していきました。
終えた時は、ただただ皆への感謝の気持ちで溢れました。
舞台は当然ながら1人でつくるものではありません。周りのダンサーたちには、いつもとは違う緊張感を少なからず与えてしまった公演だったと思うのですが、みんなが一緒に向かってくれて、つくってくれた舞台でした。
また先生方やスタッフの皆さんも、多くの方が声をかけてくださり、サポートしてくださって幕が下りる瞬間を迎えられました。
感謝、という言葉でも足りないくらいの想いです。

ⓒHasegawa Photo Pro.
満員の客席はスタンディングオベーション。
本当にたくさんの方に見届けられてのカーテンコールは、あの場にいた皆にとって特別な瞬間だったように思います。ステージからの景色はどのように映りましたか?
12月の「くるみ割り人形」でもお客様がスタンディングオベーションしてくださり、とても驚き、嬉しかったのですが、「シンデレラ」のカーテンコールで舞台上から見たその景色は想像すらしていなかったもので、夢のような光景でした。
大好きな劇場、照明の当たるステージ・・・温かい拍手に包まれて、本当に幸せでした。

ⓒHasegawa Photo Pro.
「シンデレラ」の他にも、これまで本当にたくさんの作品を踊ってきました。
特に思い出に残っている作品や公演はありますか?
たくさんあるので絞るのが難しいです。
何度も踊らせていただいた稔先生の「シンデレラ」や「くるみ割り人形」「バレエ・ドラゴンクエスト」。
ピーターさんの「コッペリア」や「ジゼル」を踊れたのも嬉しかったですし、デヴィッドの「Flowers of the Forest」のパ・ド・ドゥは格別に好きでした。昨年新制作された「雪女」も、すべてが忘れ難いです。

ピーター・ライト「ジゼル」 ⓒHasegawa Photo Pro.

デヴィッド・ビントレー「雪女」 ⓒHasegawa Photo Pro.
またバランシン作品ではベンさんとのリハーサルも濃厚でしたし、ロビンスの「コンサート」を踊れたことは幸運でした。
チューダーさんの「リラの園」も大好きですし、フォーサイスの「ステップテクスト」を踊らせてもらえたことも一生の宝です。
作品を通して、素晴らしい振付家たち、指導者たちから考え方や哲学、文化に触れられたことは、本当に貴重な経験でした。

ウィリアム・フォーサイス「ステップテクスト」林田翔平と ⓒHasegawa Photo Pro.
今だから言える失敗談など、もしあったら聞かせていただけますか?
たくさんあります(笑)
ポワントを念入りに準備して本番を迎えたのに、違和感があり踊り終えてから脱いでみると、両足とも右足用を履いていたこと。
衣裳の肩ゴムが切れてしまい、袖に捌けるたびに縫いながら踊ったこと。
「セレナーデ」で、決まったタイミングよりずっと早くに髪の毛がほどけてしまったこと。
他には、小道具関係のミスもいろいろ・・・(苦笑)
・・・(笑)
今後は、引き続きジュニアカンパニーの指導を担当するほか、この4月からはカンパニークラスの指導もスタートしました。
たくさんの舞台を乗り越えてきた中で培った経験を、次代のダンサーたちの育成に活かしていってくれることを、バレエ団としても期待したいと思います。

最後のクララ役となった2024年「くるみ割り人形」終演後、塩谷綾菜と
これまで応援してくださった皆さま、本当にありがとうございました。
言葉を用いない芸術「バレエ」が、世代や国境を越えた多くの人々との繋がりを私に与えてくれました。
ここまで続ける中で、楽しいことだけでなく、悩むこともありましたが、それでも常に前に進むことができたのは、その繋がりが私に力を与えてくれたからだと思います。
いつも応援してくださり、支えてくださった皆さまに、心より感謝申し上げます。
本当にありがとうございました。
渡辺恭子

ⓒHasegawa Photo Pro.

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