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「オール・ビントレー」振付家のデヴィッド・ビントレーにインタビュー!新制作「雪女」リハーサル映像も初公開。

3月16,17日に開催する「オール・ビントレー」。
今回のブログでは、昨年夏にリハーサルのために来日された振付家のデヴィッド・ビントレーさんへのインタビューをお届けします。


スターダンサーズ・バレエ団がビントレーさんの作品に初めて取り組んだのは2017年でした。

「Flowers of the Forest」で一緒にお仕事をしましたね。

 

 

「Flowers of the Forest」は吉田都さんをゲストに迎えて2017年に初演し、2018年にはNHKバレエの饗宴で、2019年には吉田都さん引退公演でも上演し(この時は前半「Four Scottish Dances」のみの上演)、バレエ団の大切なレパートリーとなりました。
今回「オール・ビントレー」では、「Flowers of the Forest」の他、「The Dance House」と新制作の「雪女」を上演します。

今回トリプルビルをできないかと相談を受けた時、ちょうど新作の創作を考えていました。それが「雪女」です。

着想を得たのは、新国立劇場で働き多くの時間を日本で過ごしていたときです。偶然知った小泉八雲の小説「雪女」が、ストラヴィンスキーのバレエ「妖精の接吻」にとても似ていて。雪女のほうがストーリーがよくできていると思いますけどね。

なので、久美(スターダンサーズ ・バレエ団総監督・小山久美)からトリプルビルの話を聞いたとき、最初に浮かんだのがこの「雪女」でした。「すばらしい、雪女をバレエにできるかもしれない」と。それから音楽を聴いてみて、物語を音楽に乗せていったら、本当によくマッチしました。

 

今回の公演は、ご自身の振付作品のみのトリプルビルとなります。

プログラムを構成するときに考えるのは、トリプルビルとして他の作品とどうバランスを取るか、ということです。
どうすればそれぞれの作品が十分に違いを持ちながら、同時にひとつのプログラムとして満足感のあるものにできるか。

自分の作品だけでトリプルビルを行うことは、バランスという意味では難しいんです。当然、観客はひとりの振付だけを観ることになるのですから。

これがもしバランシンだったら、作品数もとても多いですし、作品が異なっても共通するスタイルのようなものがある。だから観客にとっても、いま観ているものがどういう作品なのか、理解しやすいのではないでしょうか。

でも僕の作品は、“スタイル”というよりは“思考”が裏にある傾向があると思います。思考や感情に、より突き動かされている。バランシンのように、音楽をダンスに乗せていくといったことはしないんです。もちろんそれは素晴らしいことですよ。でも僕は物事に意味を持たせたいのです。それを観客が見て、笑ったり、泣いたり、何か考えるきっかけになるような動きを作りたい。そうやって作品を作るのが好きなのですが、そればっかりだと、全体としてみたときにくどくなりすぎてしまう。だから、作品ごとのバランスを取ることが大事なのです。

これがフルレングスのバレエだと、踊り、物語、音楽、そして情景的要素に至るまで、作品の長いスパンの中でバランスを取ることができます。それが3つの異なる作品となると、より振付的にバランスをとるということがポイントになってくる。その意味では、フルレングスバレエより難しいと言えます。

それからトリプルビルだと、より多くの踊りやステップが含まれることになるので、3つの作品のリハーサルを行うのは身体的にもハードです。それぞれの作品を文体的に正しく、技術的に優れたダンスに仕上げることは、ダンサーにとっても、振付家にとっても簡単なことではありません。

 

これまでにご自身のトリプルピルを行った時のことを聞かせてください。

自分の作品だけのトリプルビルは数えるほどしかやったことがありません。本当にハードワークですから。
最後にやったのは、ロイヤル・バレエのために振り付け、技術的に非常に難しい「Tombo」、ダンサーが多数出演する大きな作品「E=mc2」、これも難しいです。そしてカンパニーがよく知っている「ペンギンカフェ」の3本立てでした。
だからまず、「ペンギンカフェ」は無視することにしたんです。ダンサー皆よく知っている作品だから。

それで後になって、また「ペンギンカフェ」を再演することになったときに、その公演の映像を見てみたら、ひどかった(笑)キャラクタライゼーションも間違っていて。僕が放っておいちゃったから。
今回これと同じことはしたくないとは思っています。一度上演したことがある「Flowers of the Forest」はちょっとそうなるかもしれないけど、来年の来日のタイミングでしっかり時間をとろうと思っています。

 

「雪女」は1幕もののストーリーバレエとなりますね。フルレングスのストーリーバレエと違った難しさがあるのでしょうか?

フルレングスのバレエの場合、しっかりとしたストーリーがあれば、時間や場所で遊ぶことができます。
幕が変わるごとに場所をかえることができるし、次の幕になったら20年後の世界とすることもできる。それが1幕バレエとなると、そういったことを説得力をもってできないのです。そして場所も、一つの場所にとどまっているほかない。

雪女はいわゆるワンアクトバレエよりは少し長めになります。
中盤では、時間の経過を表現できるようなパートを考えています。お雪と巳之吉が出会ってから、2人の子どもが生まれ、その子が成長してという時間経過を、4分間で描くんです。きっと映画のような表現になると思います。ストラヴィンスキーの音楽だからこそできる仕掛けと言っても良いでしょう。

 

 

舞台美術は、スターダンサーズ・バレエ団としてもお付き合いの長いディック・バードさんです。

彼は素晴らしい同僚です。常に落ち着いていて、機知に富み、ポジティブで。予期せぬことが起こっても、冷静に対処できる。それはとても重要なことです。

 

今回のリハーサル中に印象的だったのは、デヴィッドさんがダンサーにお手本として見せてくださる動きや顔の表情です。本当に表現力豊かで。

それはよく言われます。もちろん自分では全然気付いていないんですけどね。

「演技する」ということについては、すばらしい言葉があって。
僕の友人にサイモン・カロウ(Simon Callow)という人がいるのですが、彼は素晴らしい俳優であると同時に著者としても優れた人で。以前、チャールズ・ディケンズの「クリスマスキャロル」を題材にバレエを作っていたときに、サイモンの書いたディケンズの伝記「Charles Dickens and the Great Theatre of the World」を読んだんです。
その中に、「Acting is not just mimicry. Acting is an act of imagination(演技は、ただの真似事ではない。演技は、想像するという行為である。)」という言葉があったんです。

つまり、あるキャラクターを想像し、そのキャラクターがどのように動くのか想像する。
何かを演じるときに僕がやっているのは、これなんです。身体的に恵まれてはいなくても、演じたいものに姿かたちが似ていなくても、想像すれば妖精にだってなれるんです。

 

 

「雪女」の登場人物について、少し聞かせてください。

雪女/お雪のキャラクターはとても面白いと思っています。「雪女」と「お雪」を、振付でどのように区別しようかというのはずっと考えていることです。お雪はとにかく柔らかく、そして雪女になると全く正反対の資質を出さなければなりません。

 

「雪女」のストーリーは、小説と全く同じなのでしょうか?

来春日本に戻って完成させますが、結末はあまり明示せず、観客の皆さんの想像にお任せしようと考えています。
皆さんにも楽しんでいただけることを願っています。

 

どんなラストを迎えるのか、一層楽しみになりました。お時間をいただきありがとうございました。

 

 

YouTubeでは、新制作「雪女」のリハーサル映像を公開しました!


「オール・ビントレー」は3月16,17日開催。
2月中旬からは、またビントレーさんを迎えての最終リハーサルが予定されています。

「Flowers of the Forest」「The Dance House」、そして「雪女」。
デヴィッド・ビントレーの真髄を堪能できる特別プログラムを、ぜひお見逃しなく。

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